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ダニエル・フリーマン (著), 高橋 祥友 (翻訳)

パラノイア: 極度の不信と不安への旅 単行本 – 2024/11/11
陰謀論が氾濫する現代において、パラノイアは参考になる病です。
この本読んで自分なりに整理できたことがあります。
1.精神病患者と正常者の間には明確な閾はなくグラデーションである。
上記前提に立って考えると精神病に罹患しているという定義は時代の価値観に大きく左右されるでしょう。そもそも伝染病などと違いウイルスに感染しているか否か?二元論で語れない疾患の種類です。そう考えると現代は精神病と健常の閾が過去よりも健常側に移動していると思えます。ある意味精神病のファッション化も起きています。現代では「ちょっと鬱」くらいじゃないと逆に変な人と思われるかもしれません。要因は沢山あると思われますが製薬会社のマーケティングの成功も大きな要因だと思えます。「我慢しないで!それは病気だから治る!」的なメッセージがメディアで展開されます。その成果としていわゆる先進国では抗うつ薬は驚異的な販売伸長を上げています。
2.被害妄想・パラノイアは不安・不信・ファストシンキングの要因が大きい。
上記要因から恐怖が醸成され不合理な脅威を信じ込んでしまう。その頑なな思考を一つずつほどいていくのが心理士・精神科医の仕事だが非常に労働生産性が低い作業であり充分な対応ができていない。筆者はアプリでVR体験を通しての治療を試みて今のところ成功しています。この取り組みが一般化すると精神疾患の公衆衛生は大きく改善されそうです。その分、心理士・精神科医の仕事は減少すると思いますが元々足りていないのだから良い傾向かもしれません。
3.不安・不信・ファストシンキングが起こりやすい環境がある。
不安・不信・ファストシンキングが起こりやすい環境は、不遇というか社会的にも経済的にも不利な状況に置かれている場合が発生率が高い。これは、実際というよりも自認が大きい。不利な立場に置かれていると他者を信頼できない、「騙されている、搾取されている、狙われている」と考えやすいのは当然だと思います。それが陰謀論へとつながるのは何となくわかります。ファストシンキングはよく考えれば正しい判断ができるのに軽率な判断をしてしまうことです。被害妄想・パラノイアの患者はファストシンキングの傾向が強くゆっくりと考えることで不安や不信が無くなっていく傾向にあるようです。貧富の差が広がっているのだとするとそのような陰謀を許容する人々が増えるのは同意せざるを得ない事実かもしれません。
パラノイア: 極度の不信と不安への旅 単行本 – 2024/11/11
説明
オックスフォード大学心理学部教授のダニエル・フリーマンは30年間にわたりパラノイアの研究と治療の最前線で奮闘してきた。この素晴らしい本はその足跡を物語る。
数十年間にわたり,パラノイアは重症の精神保健の問題を抱えた人だけが経験するものであって,その悲惨な影響を修正する方法はほとんどないと従来は考えられてきた。
フリーマン教授は仮想現実といった最新のテクノロジーを活用して臨床的なパラノイアに対する画期的な治療法を開発した。不信感は社会の至る所に存在することを教授は明らかにした。パラノイアは幅広く存在し,陰謀論も根深く,その背後には複雑な感情が存在する。遺伝子,トラウマ,不眠,心配,自尊心の低さ,大麻の使用,幻聴等に基づいて,不気味な新型コロナウイルス陰謀論などが世界中に広がっていることにフリーマンは気づいた。パラノイアのために人生で手酷い影響を受けた人々の声に真摯に耳を傾け,それに光を当てて,画期的な治療によって多くの事例に変化をもたらした。
本書は実用的な本でもある。私たち自身の不信感をどのように自覚するかをフリーマンは指し示す。不信感がいかに根深いものであったとしても,それを改善することができるのであって,どのようにして不信感を改善することができるかが解説されている。最終的に,それは克服することが可能である。圧倒的な共感に富み,本書は不信感の最前線からの心強い言葉であり,私たち全員の信頼感を必死に再建する試みとなるだろう。
目次
第1章 毎日が闘いだ
第2章 安心と感じる
第3章 パラノイア小史
第4章 仮想の地下鉄
第5章 人は信じられない
第6章 血の中に?
第7章 「私が疲れているとすべてがうまくいかなくなる」
第8章 私はまったくのクズだ
第9章 私はなぜ煙草をやめるのか
第10章 私の頭の中の声
第11章 私はどうしてこれがわかったのか?
第12章 ゲームチェンジ
第13章 不信の海
第14章 時限爆弾が爆発寸前だ
ダニエル・フリーマン
パラノイアに関する世界的に指導的な役割を果たしている研究者である。オックスフォード大学心理学部主任教授であり、同大学マグダレンカレッジの学術フェローである。オックスフォード大学健康NHS基金トラストのコンサルタント臨床心理士、英国健康治療研究所の上級研究者、オックスフォード大学認知行動療法研究グループの指導者でもある。英国アカデミーのフェローとしてBBCラジオ4で「妄想の歴史」シリーズを放送した
