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橘 玲

テクノ・リバタリアン 世界を変える唯一の思想 (文春新書 1446) 新書 – 2024/3/19
リバタリアンという新しい思想。新しい階層の人々について書かれています。地球に人類が発生しておよそ数万年ですが、過去数百年の人類史の変化は恐ろしいほどともいえると思います。人類はこの後どのような歴史を刻んでいくのか興味があります。当事者としてもその流れの一端に属していることは不思議な感覚です。
例えば100年前、1925年の日本はどうだったか。
産業革命を経た日本の総人口は6000万人となり、増加した人口の多くは大都市の第二次・第三次産業に吸収され、俸給生活者(サラリーマン)となった。 大正デモクラシーはこの年に成立した「普通選挙法」に結実し、25歳以上の男子であれば納税額にかかわらず選挙権を得た。ラジオ放送が開始された年でもあります。自家用車や個人の航空機による海外旅行など考えることもできない時代です。軍事力で強い国が弱い国を征服することが当然と思われていた時代です。
日本における平均寿命は、男性で約42.06歳、女性で約43.2歳でした。
2125年にはどうなっているか楽しみです。
今はテクノリバタリアンは変わり者の頭の良い金持ちですが、100年後には主流というか施政者・支配的階級になっているかもしれません。ある意味賢人政治ですが、中国を見ていても独裁的でも民意には敏感で民意に大きく反発されるような政府になると転覆される危険性が高まることを意識しているように思います。
テクノリバタリアンも同様に自己の安全と民衆の反発を避ける方向に進みそうです。でも、愚か者は賢者に導かれるのは必然のような気がします。
テクノ・リバタリアン 世界を変える唯一の思想 (文春新書 1446) 新書 – 2024/3/19
説明
そこは楽園か、ディストピアか?
シリコンバレーの天才たちが希求する「数学的に正しい統治」とは?
アメリカのIT企業家の資産総額は上位10数名だけで1兆ドルを超え、日本のGDPの25%にも達する。いまや国家に匹敵する莫大な富と強力なテクノロジーを独占する彼らは、「究極の自由」が約束された社会――既存の国家も民主主義も超越した、数学的に正しい統治――の実現を待ち望んでいる。
いわば「ハイテク自由至上主義」と呼べる哲学を信奉する彼らによって、今後の世界がどう変わりうるのか?
ハイテク分野で活躍する天才には、極端にシステム化された知能をもつ「ハイパー・システマイザー」が多い。彼らはきわめて高い数学的・論理的能力に恵まれているが、認知的共感力に乏しい。それゆえ、幼少時代に周囲になじめず、世界を敵対的なものだと捉えるようになってしまう。イノベーションで驚異的な能力を発揮する一方、他者への痛みを理解しない。テスラのイーロン・マスク、ペイパルの創業者のピーター・ティールなどはその代表格といえる。
社会とのアイデンティティ融合ができない彼らは、「テクノ・リバタリアニズム」を信奉するようになる。自由原理主義(リバタリアニズム)を、シリコンバレーで勃興するハイテクによって実現しようという思想である。
いわゆるリベラル層は、所得格差と富の偏在を不道徳とする傾向がある。だが、それは逆に言うと、「自由」を抑圧することになる。自由のない世界では、マスクやティールのような「とてつもなく賢い」人々は才能を殺され、富を簒奪されることになるからだ。
彼らは「テクノロジーによってすべての問題は解決できる」と考えている。AI、ゲノム編集技術を駆使して人類は不死を手に入れ、森羅万象を操る「ホモ・デウス」になれると確信する者も多い。
また彼らは、国家のような中央集権的な組織に依存せずとも暗号(クリプト)テクノロジーによって個人と個人をつなぎ、暗号資産をもってすべての信用決済が可能になる社会が到来するとも信じている。その行きつく先は、「暗号によって個人を国家のくびきから解放する」とする過激な無政府主義「クリプトアナキズム」である。
実際、クリプトアナキストのひとりは「反民主主義」を標榜し、「世界中の民主政治と称するものを、暗号化を利用して根底から揺るがしたい」と公言している。
「この惑星上の約40~50億の人間は、去るべき運命にあります。暗号法は、残りの1%のための安全な世界を作り出そうとしているんです」(ティモシー・メイ)
――とてつもない富を獲得した、とてつもなく賢い人々は、いったいこの世界をどう変えようとしているのか? 衝撃の未来像が本書で明かされる。
橘 玲
2002年、国際金融小説『マネーロンダリング』でデビュー。同年、「新世紀の資本論」と評された『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方』が30万部を超えるベストセラーに。06年『永遠の旅行者』が第19回山本周五郎賞候補。『言ってはいけない 残酷すぎる真実』で2017新書大賞受賞。